原子構造や電子の挙動のはなしは、(特に化学・物理分野の)技術者にとっては、基本中の基本だろうけれど、素人にはよく分からない。
以下は、昔、大学の教養科目で学んだ「化学」の講義などを思い出しつつ、新しく読んだ参考書を頼りに、技術文書の翻訳者として素人なりに「原子構造」の勉強をした結果の備忘録である。
原子とは何か?
原子は、すべての固体・液体・気体の構成要素である。すべての原子は1個の原子核といくつかの電子から構成され、また、その原子核は、いくつかの陽子といくつかの中性子から成る。陽子と中性子の質量はほぼ等しいが、陽子が正の電荷を有するのに対して中性子は電荷をもたない。また、陽子と電子を比較すると、電子の質量は陽子の質量よりも10の4乗くらいのオーダーで軽い。電子は陽子の電荷とほぼ同じ大きさの負の電荷を有する。
場所 | 要素 | 電荷(静電単位) | 質量(g) | |
---|---|---|---|---|
原子核 | 陽子 | 4.803x10^(-10) | 1.673x10^(-24) | 質量数を構成するもの |
中性子 | 0 | 1.675x10^(-24) | ||
原子核外 | 電子 | 4.803x10^(-10) | 9.109x10^(-28) | 原子の化学的性質を決める |
質量分析(ある特定の元素を個性原子の質量によって分類する方法)を用いて、同位体の割合を計算したり、質量欠損を計算したりすることについてもここに書いた方がいいのかもしれないが、話が大きくなり過ぎるので割愛する。
質量欠損:ある元素の原子核の質量は構成核子の総和で与えられるが、これを精密に測ると総和よりもやや小さくなっており、この差を質量欠損という。質量欠損は、結合に際して原子核が失ったエネルギーを示し、核子間の結合力の強さを表す。
金属物理学序論―構造欠陥を主にした (標準金属工学講座 9)
原子の構成要素
上の表からわかるように、原子の質量を決めているのは、陽子+中性子であり、陽子と中性子とで、原子核を構成する。また、原子核のサイズは原子のそれよりもはるかに小さい。すなわち、原子は重くて小さい原子核(陽子+中性子)と、原子核の周りを取り巻く電子で構成される。
原子核の周りを取り巻く電子(核外電子)の挙動が、原子を理解するキモであり、核外電子の数がそのまま原子番号となる。また、原子の化学的性質を決めているのも核外電子である。したがって、原子番号の大小に基づいて元素が並ぶ周期表は、原子の化学的性質を反映した順序になっているといえる。
(参考)原子説の変遷
原子説とは「物質が分割可能なツブツブ(=原子)によって構成される」という、古くはデモクリトスに由来する説であり「物質は連続的なもの」というアリストテレス以来の歴史的な概念に対抗する考え方である。今日の原子概念の基礎は、19世紀初頭に(倍数比例の法則などで有名な)ドルトンが、質量保存則や低比例の法則をうまく説明する説として提唱した。つまり「すべての純粋物質は一定の性質および質量をもつ微粒子すなわち原子から成り、化合物の原子は単体の原子が簡単に結合したもの」と仮定したものである。ただ、この説では気体反応の法則を説明できないため、アボガドロは、ドルトンの原子を分子と言い換えて、その分子の構成要素として原子を設定した。
20世紀に入ると「鉄の火かき棒問題」を解決するという時代の要請を切っ掛けに、プランクやアインシュタイン、ラザフォードやボーア、ゾンマーフェルト、パウリといった天才たちの知性が爆発して、上述の「原子」の構造についての理解および量子力学の基礎理論が出来上がってくるが、スケールが大きすぎて、全部はとても書いていられない。
『量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)』を参考にぜひどうぞ。
特に有名な原子模型
高校の授業で初めてボーアの原子模型について習ったころ、 炭素原子に手が4本生えている模式図を見たときほどではないけれど「説明が簡単過ぎて逆に分からない」という印象を持ち、結局最後まで、あまり理解できずに終わった。そこで今回は科学史にも注目して勉強した。
19世紀以降、数多くの原子模型が提唱されたが、おもな原子模型が発表された順序としては、トムソンのブドウパン型 ー> ラザフォードの惑星モデル ー>ボーアのラザフォード-ボーア型になる。量子力学の幕開けにもなったボーアの原子模型について大雑把にまとめると「太陽系のように同心円状の軌道群が存在し、各軌道には定員があって、その定員の分だけ、原子核に近い軌道から順番に電子が配置される」という理論である。



ラザフォードからボーアまでの道程
※『金属物理学序論―構造欠陥を主にした (標準金属工学講座 9)』の記載をベースにする
1911 ラザフォード -原子核の概念のはじまり-
原子は重くて小さな正に荷電した原子核が中心にあり、その周りに何個かの電子があるという原子模型を、Au箔にα粒子をぶつけて、Au原子によってα粒子の軌道が曲げられる現象を基に考案した。
1913 ボーア -プランク定数を導入し現在の原子模型の原型をつくった-
「原子番号Zの原子では、Z個の電子がちょうど太陽系における遊星のように原子核を中心としてその周りを回転している。ただし、電子の位置(軌道)は任意ではなく、とびとびである」
ボーアはなぜ「電子は任意の軌道を取ることができない」と考えたのか?
理由1.観測結果
電子が連続的な任意の軌道を取るならば、観測結果は連続スペクトルになるはずである。しかし、実際に観測結果では、連続スペクトルではなく、決まった波長の輝線の集まりから成る線スぺクトルが観測された。
理由2.運動の理論
もし核外電子が0~+∞の距離までの任意の軌道(簡単のため円軌道を考える)を許されるとすれば、核外電子は時間とともに、連続的にエネルギーを失って、だんだんと小さい軌道を描くようになり、最後は原子核の中に落ち込んでしまうはずだ。
考察
上記の理由より、核外電子の挙動は単純な太陽系類似の模型では説明がつかないことがわかる。観測結果が線スペクトルであるならば、核外電子の許される軌道は不連続であり、したがって、軌道の大きさ委に依存する電子のエネルギーも不連続である。
ボーアの天才的な発想
軌道あるはエネルギーの不連続性について、プランクの量子論を適用した。つまり、原子の内部では角運動量が量子化されていてL=nh / 2π という決まった値しか取ることができない、とした。

エネルギーの増減
電子の軌道が量子化されると、原子の内部で電子が持てるエネルギー量も量子化される。プランク定数とエネルギーの関係を思い出すと、ボーアの振動数条件(⊿E=hν = E2 – E1)が導出される。


まとめ
- 原子内の核外電子の円軌道の半径rやエネルギーEnは、正の整数nによって規定される。nが増せば、半径rが増すとともに、そこにある電子のエネルギーも不連続に増加する
- 電子の軌道が量子化されると、原子の内部で電子が持てるエネルギー量も量子化される。
4つの量子数
ボーアの原子モデルは、1電子系である水素原子スペクトルについてはきれいに説明することができたが、多電子系のもっと複雑な原子についてはあまり成功しなかった。ほかの研究者たちは、ボーアが見落とした点を探し出し、量子数の種類を増やすことで少しずつ穴を埋めていった。
原子の電子配置はおもに、『原子中の電子は4つの量子数n, l, ml, msによって規定される』というパウリの排他原理と、『量子数lの等しい軌道に電子が充填されるとき、できるだけmlの異なった軌道に入り、スピンを同じ向きにしようとする』というHundの法則によって規定される。軌道の大きさ・形状・配向性はn, l, mlによって一義的に決まり、状態はmsによって決まる。ここで、
n 主量子数
・軌道の大きさとエネルギーを決める
・値:1,2,3,…
l 方位量子数
・軌道の形をきめる
・値:0,1,2,3,…,n-1
ml 磁気量子数
・軌道の空間での配向を決める
・値:0, ±1, ±2,….,±l
ms スピン磁気量子数
・2つの値(+1/2 と -1/2)をとり、前者は右回りの自転に対応しαスピン、後者は左回りの自転に対応しβスピンとよばれる。