マルチクレームのシングルクレーム化についてメモ

特許法など法律関係

先日バイト先の法律事務所で、PCT出願した特許を米国国内移行用する際に請求項を調整したときのメモ。

普段、翻訳や校正のために特許を読むときに意識することはないが、独立請求項の個数や、従属請求項がどのように従属するかによって、出願に要する費用が大きく変わったり、そもそも拒絶されてしまうことがある。特に米国では、マルチクレームが1つ含まれるだけで、出願費用が780$も増加する。

したがって、直接出願やPCT等を通じて、日本で基礎出願した特許を米国国内に移行する際には、顧客の利益を考える法律事務所としては、マルチクレームをシングルクレーム化する作業をする。

なお、マルチクレームを引用するマルチクレーム(マルチマルチ)は、米国・中国などでは拒絶される。

マルチクレームとは?

まず用語の確認から。

マルチクレーム

多項従属請求項のことであり、下位の請求項が上位の請求項を2つ以上引用する記載形式の請求項(クレーム)

ほとんどの国で認められる記載方法だが、米国では、マルチクレームが1つでもあれば追加料金が発生する。

マルチマルチクレーム

「多項引用請求項を引用する多項引用請求項」の意味であり、マルチクレームを引用し、さらに、自らもマルチクレームの形式である請求項

日本やヨーロッパでは認められるが、中国・韓国・台湾・米国などでは、拒絶される。

具体例

ネット検索をすると、ちょうどよい具体例が見つかった。

【請求項1】A、BおよびCを備える、装置。

【請求項2】Dをさらに備える、請求項1に記載の装置。

【請求項3】Dがdである、請求項2に記載の装置。

【請求項4】Eをさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。

【請求項5】Fをさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。

【請求項6】Gをさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。

請求項4は、上位の請求項(請求項1、2、3)を引用しているので、マルチクレームです。

請求項5は、マルチクレーム(請求項4)を引用し、さらに、自らもマルチクレームの形式(「請求項1~4のいずれか一項に記載の…」)となっていますので、マルチマルチクレームになります。

同様に、請求項6もマルチマルチクレームになります。

ちなみに、請求項2や請求項3は、通常の従属請求項です。

やまぎし特許商標事務所のウェブサイトより

シングルクレーム化

事務所で習った方法によると、やり方は2通りあって、単純に、請求項を分割して個数を増やすか、あるいは、本当に引用が必要な請求項なのかどうかを吟味して、多項従属の状態を解消すればよい。

前者について、上の【請求項4】を例にとると、

  • Eをさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。

となっているものを

  • Eをさらに備える、請求項1に記載の装置。
  • Eをさらに備える、請求項2に記載の装置。
  • Eをさらに備える、請求項3に記載の装置。

とするらしい。

なぜ国によって扱いが変わるのか?

外国出願の統一的手続きであるPCTをして、国際審査の段階で問題がなければ、そのまま各国へ移行できそうな気もするが、そういう訳でもない。

パリ条約の3大原則の1つ『 各国特許の独立 』において「 独立の対象は、無効・消滅・存続期間・特許審判・審査手続き・与えられた権利範囲に影響する」と規定されている。

同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は,他の国(同盟国であるか否かを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。

パリ条約第4条の2(1)

なお、PCTはパリ条約に代わる制度ではなく、パリ制度を優先しつつ、各国内における出願から先行技術調査に至るまでの手続きを統一する、という役目を担う。

参考